スクワットを専門家視点で分析【アスレティックトレーナー】

スクワットのフェーズ AT

はじめに

こちらでは「専門家の視点」と題して、基本編からさらに深掘りした内容をお届けいたします。
もっとスクワットを深掘りしたい方、身体のことについて詳しく読んでみたい方は是非続きをご覧ください。

基本編はこちらから↓

今回は、アスレティックトレーナーの視点から、「スクワット」と「体幹」の関係性について詳しく述べていきたいと思います。

アスレティックトレーナーとは?
JSPO-ATとは?

スクワットと筋肉の運動

基本編では、スクワットでお尻、もも裏などの筋肉が鍛えられる、と記述しました。
決して間違ってはいませんが、言葉足らずな部分もあります。

ここでは更に詳しく、詳細な情報をお伝えしたいと思います。

作用する筋(使われる筋)を知る

基本的に、関節運動が起こる股関節・膝関節の動きに関わる筋はすべての筋が作用します。

代表的なところで言えば、
大腿四頭筋(大腿直筋、内側/中間/外側広筋)
・ハムストリングス(大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋)
・臀筋群(大臀筋、中臀筋、小臀筋、梨状筋など)

などがあるでしょう。

今回はこのあたりに焦点を当てて話を進めていきます。

スクワットの3つのフェーズを知る

スクワットの動きをイメージしてみてください。

  1. 下降局面(お尻を下ろす局面)
  2. ボトムポジション(下降局面から上昇局面に移行するタイミング)
  3. 上昇局面(お尻を上げる局面)

の3つのフェーズに分けられます。

それぞれのフェーズごとに筋発揮の仕方も変わってきます。

1.下降局面

図3

股関節、膝関節は曲げる動き(屈曲動作)を行う局面です。
この時、大腿四頭筋(大腿直筋)、ハムストリングス、臀筋群らは、伸張性収縮を行っています。

伸張性収縮=筋が伸ばされながら筋発揮をしている収縮様式。(Eccentric Contraction)

収縮様式を知る

2.ボトムポジション

図4

姿勢を保持する局面です。
ここで例えば、数カウント姿勢をキープする場合、筋は等尺性収縮を行い、姿勢を保持します。

等尺性収縮=筋の長さは変わらず、関節運動が起こらない収縮様式。(Isometric Contraction)

3.上昇局面

図5

下肢全体を伸ばす局面です。
大腿四頭筋(大腿直筋)、ハムストリングス、臀筋群らは、短縮性収縮を行います。

短縮性収縮=筋が短く縮みながら筋発揮をする収縮様式。(Concentric Contraction)

筋肉の収縮について知る

脳から筋肉に対する指令は、「縮む」以外のものはなく、筋肉が「縮む」ことで人間の体は動かされます。

図6 左:上腕三頭筋(二の腕)の筋が縮むことで肘が伸びる/右:上腕二頭筋(力こぶ)の筋が縮むことで肘が曲がる

筋肉が縮むことで肘が曲がる動き(右図)が起こることはイメージしやすいと思います。

では左図はどうでしょうか?
「肘が伸びている」ように見えますが、筋肉の運動としては、「肘を伸ばす筋肉が縮んでいる」という状態です。
肘を伸ばす、という動きはあくまでその結果として起こっており、筋肉は基本的に縮む方向にしか動こうとはしません。

突然ですが、、、

①机の上から重い段ボールを下ろす
②床から机に段ボールを乗せる
どちらの方が重たい段ボールを運ぶことができますか?

図3 ①机の上から重い段ボールを下ろす
図5 ②床から机に段ボールを乗せる

おそらくほとんどの人が、「①机の上から重い段ボールを下ろす」と考えたかと思いますが、ここには明確に理由があります。

段ボールを高いところから下ろすような動きは、スクワットの下降局面に当たり、この局面では、伸張性収縮が行われます。
反対に、低いところにあるものを持ち上げるような動作はスクワットの上昇局面にあたり、短縮性収縮が行われます。

この伸張性収縮と短縮性収縮、より大きな力を発揮できるのは、伸張性収縮の方と言われている 1) 2) ため、①の方が思い荷物を持つことができる、と考えることができます。

特定の効果を狙って、降ろす局面によりフォーカスするようなトレーニング方法もバラエティの一つとして考えられます。

伸張性収縮の特徴として、

  • 発揮する筋力が大きい。
  • 筋力低下の予防(怪我の後や高齢者)3) 4)
  • 腱障害の痛みの軽減や機能改善に効果的 5)
  • スポーツのパフォーマンス向上 6)

など、様々な前向きな効果があるとされています。

伸張性収縮の効果やエクササイズについては、改めて掘り下げて書く機会を設けようと思います。

体幹の安定性を高める考え方

スクワットをしていて腰が痛いという方、いらっしゃいませんか?

基本編では「体幹に力が入る」という形でお伝えしました。
体幹に力が入ると、腰の痛みを予防することができます。

この点について深掘りしていきたいと思います。

体幹とは?

「体幹」と聞いて多くの方がイメージするのは、これらのようないわゆる「体幹トレーニング」だと思います。

しかし、解剖学的な「体幹」とは、「身体における四肢以外の部分」を指し、腹筋以外にも、背中、胸部骨盤も含まれます。

図7

皆さんが考えていたよりも、意外と広い範囲を示しているのではないでしょうか?
まずは、体幹が腹筋だけでなく、もっと広い部位を示すことを念頭に置いていただけたらと思います。

なぜ体幹に力が入っている状態を作ることが良いのか

「体幹に力が入っている状態」とは、どのような状態?

少々極端ですが、下図8の右側のような状態が望ましいと考えています。

図8

図8左側のような姿勢は「オープンシザース」と言われます。
腰や膝など、他の部位への負担が増してしまうとされています。

・胸が引き上がっている
・腰が反っている
・骨盤が過前傾している
・腹筋群が緩んでいる

というような状態です。

対して右側は、

・胸(胸郭)が拡張している
・脊柱(胸〜腰・骨盤)が自然なカーブ(ニュートラル)を描いている
・腹筋群が適度に緊張している

という状態です。

人間の背骨は、自然なS字カーブを描いています。

図9

これによって、頭の重さを分散させ一つ一つの骨にかかる負荷を和らげています。

これが例えば過度に腰を反ったり、骨盤が前に傾いたりしている場合、負荷が一点に集中してしまい、怪我や痛みの原因となってしまいます。

図10
図8

図8左は、腰を反りすぎて、カーブが過剰に出ている状態です。負荷の分散が上手くいかず、一箇所に負荷が集中する原因となります。
右図のように、背骨の自然なカーブを保つことが、「体幹に力が入っている」状態を作るために重要であるといえます。

「なぜ」体幹に力が入っている状態を作ることが良いのか

ではなぜ、体幹に力が入っている、図8右側のような姿勢が良いのか?

結論、基本編でシーソーを例に触れたように、「動きの支点となり、より大きな力を発揮することができるから」です。7)
腰を正常なポジションに保ち、体幹に力が入っていると、他の関節にも良い影響を与え、正確な運動パターンを導き出すことが研究でも示されています。↓

Effect of Core Strength on the Measure of Power in the... : The Journal of Strength & Conditioning Research
rt performance in an athletic population and (b) develop a functional field test to determine how well the core can transfer forces from the lower to the upper ...

理想的なアライメントを作るために

身体科学・運動科学業界として、体幹の安定性の重要性を示唆する理論として以下の2つをよく耳にします。

joint by joint theory
・multi joint theory

これらの理論を端的に説明すると、「それぞれの関節の動きは隣り合う他の関節の動きにも影響を与える」というものです。

体幹部分を適切に働かせるためには、背骨全体、胸椎(胸の高さの背骨)や股関節など、周りの関節が適切に働くことが重要になります。

これらの関節を適切に働かせるためのエクササイズ例を次の項でご紹介します。

【スポーツ現場の話】

この、「腰のポジションを正常に保てていない状態」は、アスリートにもよく見られます。
特に、ウエイトトレーニングなど、高負荷のトレーニングを行っているアスリートにおいて、より大きな力を生み出すために無理な姿勢を作ってしまうことはよく起こっています。

このような選手はよく腰の痛みを訴えますが、腰だけでなく、背中の張りやももの筋の張りを訴えることも多々あります。
まさに、Multi Joint Theoryを示唆する主訴です。

腰や腿など、痛みの出ている部位のマッサージをしたり、痛みをとるための治療をしたりすることは至ってシンプルですが、それでは根本の原因を取り除くことができていません。

そのような時、筆者はよく、脊柱のアライメントを整えるためのアプローチを行います。
パターンとして多いのが、
「腰椎が過度に反っている」
「骨盤が過度に前傾している」
「胸郭の可動性が低下している」

の3つです。

このような姿勢・運動パターンをCorrective(矯正)することが、慢性的な腰の痛み、背中や腿の張りをよくすることに重要です。

以下の項で、実際によく行うアプローチ方法をご紹介します。

エクササイズ例

下背部・骨盤
図11

四つ這いになり、図のように背中をできる限り丸め、この姿勢をキープしたまま深呼吸をする。
息を吸う時:肋骨を背中側に広げる。
息を吐く時:下腹を凹ませながら、脇腹〜腹筋に力が入る。
このような感覚があればなお良いです。

背骨が正常に動いている人は、背中全体がきれいなカーブを描きます。
もし動きが悪い部分があれば、その部分はきれいに丸まらず、真っ直ぐなままになっているかもしれません。

背骨を丸める動きは副交感神経を優位にする傾向もあり、リラックスしたい時にもおすすめのエクササイズです。

上背部
図12

図のように、四つ這い+片膝立ちの姿勢になり、胸を大きく広げる。
この姿勢をキープしたまま、1つ目のエクササイズと同じように、大きく呼吸をする。
支えている手〜背中にかけて、全体的に筋が緊張している(力が入っている)ように意識しましょう。

息を吸うときに肋骨を広げながらより肘を後ろに引くことができると可動域も徐々に広がってきます。

軸圧を加える

そもそもスクワットと言っても、重りを持つか持たないか、どこで持つか、など、いろいろ選択肢があります。

スクワットのバリエーション

もちろん、競技レベルによりますが、体幹に力を入れることを習得したい選手には、背骨上で重りを持つことをおすすめします。これは、重りを持つことによって「軸圧」という力がかかり、自然と体幹部の筋が緊張する形を作りやすいためです。8)9)10)

まずはきれいな形を作ろうとして、フォームを気にしてしまうかもしれませんが、気にしすぎずに、持ってみることも、案外重要だったりします。

そうすることで、「体幹に力が入る」という感覚を掴むことができるかもしれません。

最後に

要約

①スクワットは、腿、お尻周りの筋が働く
②降ろす時のようがより重いものを持てる
③体幹に力が入っている状態を作ることで腰痛を予防し、より大きな力を出すことができる
④体幹に力が入る状態を作るために、胸郭など、周りの関節の可動性が重要である

今回は、「体幹」に焦点を当ててスクワットについて少し深掘りしてみました。
動作分析、ストレングスコーチの視点からの解説記事もございます。興味のある方は、こちらも是非ご覧ください。

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