ドライブライン [Driveline]
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近年話題のプライオボールトレーニング。
元々は、アメリカはシアトルにある野球選手をサポートするトレーニング施設、ドライブライン [Driveline]から広まっています。
MLB選手はもちろん、近年ではNPB選手もオフに自腹を切ってでもトレーニングを受けに行っています。
また、NPBのキャンプにドライブラインのスタッフを招待し、指導を仰ぐ光景も見られています。
今回は、そのプライオボールトレーニングについて
本当に効果があるの?
どうやってやればいいの?
などの疑問について解説していきたいと思います。
ここで強調しておきたいのが、トレーニングは怪我のリスクと隣り合わせということです。
ドライブラインからこのトレーニングも認知が広がってきていますが、
考え方を誤ると怪我のリスクと隣り合わせであるため、この記事を通して正しい理解のもと実践をしていただき、正しい成果を出していただくことが願いです。
執筆は、日本スポーツ協会のアスレティックトレーナーで、ドライブラインのYouth Development(ユース育成)の認定資格保持者が務めます。
ドライブラインのコンセプト
「ドライブライン」「プライオボール」と聞くと、「球速をアップするトレーニング」とイメージする人も多いと思います。
googleで”driveline baseball”と検索するとこのような検索結果です↓
事実、ドライブラインでのトレーニングを終えた投手の多くは球速が上がっていると言われますが、ドライブラインの本質は球速アップではありません。
ドライブラインは彼ら自身のことを、
”the premier data-driven baseball player development organization”
データに基づく野球選手育成の機関
最先端のモーションキャプチャー(=動作解析)評価、理学療法評価(=身体機能評価)、そして投球、打撃、ハイパフォーマンス・コーチングに基づいた、専門的な評価と再テストを通じて選手を育成する。
と謳っています。
選手のパフォーマンスの向上や怪我防止、適切な育成が目的であり、
球速アップは結果の一つに過ぎないことが重要です。
代表的なプライオボールトレーニングも、球速を上げるためだけに取り組むのではなく、投球メカニクスを改善することが最たる目的です。
結果的に怪我の予防にもなり、良いメカニクスで投げることができることで結果的に球速がアップすることもあると認識してください。
2023年DeNAベイスターズで活躍した大スター、トレバー・バウワー投手は理論派投手として知られていますが、彼もこのドライブラインでトレーニングをした選手の一人です。
もちろんプライオボール意外にも推奨されるトレーニングは数多くありますし、実は、投球だけでなく打撃についても確立された理論を持っています。
カージナルスのヌートバー選手もドライブラインで大きく成長した選手の一人です。
投球・打撃のメカニクスについてはまた今後記事を書いていきたいと思います。
プライオボールトレーニングの効果
今回の記事は、ドライブラインが提供している客観的情報と、執筆者の主観的意見を交えたものであることをご承知おきください。
重さによる効果の違い
プライオボールには、実は重いボールと軽いボールがあります。
それぞれ、
重いボール(overweight ball)
>投球の際の運動速度が落ちるため、身体へのストレスが抑えられる
>より多くの筋が使われることで、結合組織(腱や靭帯など)が保護される
軽いボール(under weight ball)
>動作スピードを上げる
といった効果があります。
動きの制約による効果
このプライオボールトレーニングで行われるドリルは、通常の投げ方ではなく、あえて動きに制限をつけた投げ方(投げづらい投げ方)をします。
普段とは違った投げ方の中で、効果的に投げることができる方法を模索し、より効率的な投球メカニズムを習得することができます。
実際に効果的であるかの議論
投球の際には、様々な筋肉や靭帯が、引っ張り・引っ張られて肩の関節を安定させています。
例えば一部弱い筋肉があったとします。そうすると、その代わりに周りの強い筋肉が余計に力を必要としてしまいます。
これによって本来とは違うストレスが関節や筋にかかり、痛みを発します。(図1 下)
これが投球障害の原因の一例です。
筋がしっかりと働くほどの負荷をかけることで、より多くの筋を目覚めさせ、関節を強く安定させることが重要です。
トレーニングにはいくつかの「原則」があり、そのうちの一つに「過負荷の原則」というものがあります。
筋が成長するためには、これまでにかけてきた以上の負荷をかけなければいけない、ということです。
通常の重さのボールでは強化されない筋を、それ以上の重さのボールを使って強化する、という考え方ができます。
一つ気になることはありませんか?
重いボールを投げて怪我しないの?
これらのトレーニングと怪我との関連について、文献・調査を調べてみると、以下のような考察が散見されます。
ウエイトボールは広く使用されているが、怪我のリスクという点では議論の余地がある。
エリート野球選手は、怪我のリスクがあるにもかかわらず、ウエイトボールがパフォーマンスを向上させると認識している。1)
高校生の投手の大半は、球速を上げるためにウェイトボールプログラムを使用している。
ウェイトボール・プログラムは、平均球速とピーク球速の向上に関連している。2)
ほとんどのエリート野球選手は、ウエイトボールには怪我のリスクがあると認識している。
そのようなリスクがあるにもかかわらず、選手たちはパフォーマンスの向上のためにウエイトボールを使用している。3)
ウェイトボールプログラムは、メカニクスの改善を通じて投球速度を向上させる可能性がある。
ウェイトボールプログラムでは、ケガのリスクが高まる可能性がある。4)
WBV(weight ball velocity)投球プログラムは速度を向上させるが、傷害リスクを増加させる可能性がある。
WBVプログラムの長期的な安全性への影響は不明である。5)
※プライオボール=ウエイトボール
ピッチングのパフォーマンスを向上させることも期待できるものの、怪我のリスクも懸念されているのが現状です。
調査によると、ウエイトボールを利用する投手は、そのようなプログラムを使用しない投手と比較して、平均および最高速球速度が高いことが示されています。2) パフォーマンス上の利点があるにもかかわらず、かなりの割合の選手がウエイトボールの使用が痛みやけがの原因であると回答しています。一部の研究では、これらのプログラムの参加者の負傷率が増加していることが報告されています。1)5)
研究活動も盛んなドライブラインですが、投球速度向上に対するエビデンスは揃えつつも、傷害との関連については未だ手を出せていないのが現状です。
しかし彼らは、これらの記事の中でも再三、「適切なプログラムで行うこと」に言及しています。
これはスクワットなどのウエイトトレーニングにも言えることであり、どんなトレーニングも適切に行わなければ効果は出ませんし、逆に怪我のリスクを高めることもあります。
専門家の適切な助言の元これらのトレーニングを行うことで、怪我のリスクを抑えつつ、投球メカニクスの向上、怪我の予防、球速アップなどの効果が見込めます。
プライオボールトレーニングの具体例
Reverse Throws
◆ 目的
・肩後面の筋の強化
・回旋速度の向上
◆ 動画・実施の際の注意点
・肩から動かし、肘が勝手に肩を追い越すように
・手の甲は常に壁に向けたまま、前足は壁と反対側に常に向けておく
・ボールは顔の高さで壁に当てる
Pivot Pickoffs
◆ 目的
・効率的な腕の動作の獲得
・上半身の分離感を身につける
※骨盤を境に、上半身(胸・肩)と下半身(骨盤以下)は別々に動かすべきであるという、投球メカニズムの観点から
・肘の靱帯を保護するために重要な前腕の筋の強化
◆ 動画・実施の際の注意点
・背中から腕を後ろに引く
・ボールをリリースした後は親指は下に向く
・ボールは目の高さで壁に当たる
・腕は体に巻き付かず、投球側のお尻に当たるように
Roll-In Throws
◆ 目的
・骨盤と肩の分離運動の学習。下半身から回旋し、その後上半身が回旋するという順序を学習する。
・前足(右投手の左足)のブロックのタイミング、勢いを学習する。
◆ 動画・実施の際の注意点
・ボールは目の高さで壁に当てる
・前足が接地するまで肘は後ろに置いておく
Pivot Pickoffより難易度は高いため、順序に注意する
Rocker Throws
◆ 目的
・下半身の回旋の力を上半身に伝える
・腕を使った動作(手投げ)を防ぐ
・前足のブロックによる上半身の回転を学習する
◆ 動画・実施の際の注意点
足幅が狭くならないように注意
※グラブ・投球側の手は、動画よりも外側(膝や脛の外側)にあることが望ましい。
Walking Wind-Ups
◆ 目的
より移動スピードのある動きをして、前足のブロックを強くする。
◆ 動画・実施の際の注意点
全力で投球する
これらの動画で示している例も、完璧なクオリティとはいえません。
あくまで例であり、実際にトレーニングするためには不十分である可能性があります。
発展には共有が不可欠である
彼らは「発展には共有が不可欠である」と考えており、webサイトでは誰でもアクセスできるフリープログラムが紹介されています。
フリーというと、情報不足などが懸念されますが、こちらで公開されているプログラムは十分なボリュームとクオリティがあり、それぞれの環境で活用するには十分です。
これに加えて専門家による指導を受けることができるとより目標達成に近づくでしょう。
プライオボールはネットからでも購入可能です。
これを読んで興味を持った方は是非こちらのリンクから購入し、自身やお子様のトレーニングに活かしてみてください!
ピッチングプログラムリリースについて
・球速を上げたい
・回転数を上げたい
・投球時に肩や肘が痛い
などといった声にお応えし、ピッチングプログラムをリリース予定です。
スポーツ傷害の専門家であるアスレティックトレーナー、ピッチングメカニクスを研究するバイオメカニスト、トレーニングの専門家であるストレングスコーチの観点から、それぞれの課題に合わせてご利用いただけるように準備を進めております。
正式リリースの際には改めて告知いたしますので、こちらも是非ご検討ください。
参考文献
1) Claudia, Candia. (2022). Athletes Perceive Weighted Baseballs to Carry a Notable Injury Risk, yet Still Use Them Frequently: A Multicenter Survey Study. doi: 10.5435/jaaosglobal-d-21-00306
2) Eric, N., Bowman., Christopher, Camp., Brandon, J., Erickson., Michael, T., Freehill., Matthew, V., Smith., Eric, Madia., Mike, Matthews., Sam, Simister., Cade, Wheelwright., Hiroaki, Ishikawa., Peter, N., Chalmers. (2023). Most High School Baseball Pitchers are Using Weighted Ball Throwing Programs to Increase Ball Velocity: Cross Sectional Analysis of US High School Pitchers. JSES reviews, reports, and techniques, doi: 10.1016/j.xrrt.2023.01.005
3) Austin, G., Cross., Lafi, S., Khalil., Alexander, J., Swantek., Vincent, A., Lizzio., Alexander, Ziedas., Christopher, L., Camp., Peter, N., Chalmers., Karch, Smith., Sarah, Chaides., John, D., Rexroth., Eric, C., Makhni. (2022). Athletes Perceive Weighted Baseballs to Carry a Notable Injury Risk, yet Still Use Them Frequently: A Multicenter Survey Study. doi: 10.5435/JAAOSGlobal-D-21-00306
4) Heath, P., Melugin., Annie, Smart., Martijn, Verhoeven., Joshua, S., Dines., Christopher, L., Camp. (2021). The Evidence Behind Weighted Ball Throwing Programs for the Baseball Player: Do They Work and Are They Safe?. Current Reviews in Musculoskeletal Medicine, doi: 10.1007/S12178-020-09686-0
5) Jason, L., Zaremski. (2020). Weighted Ball Velocity Throwing Programs Are Effective. Are the Benefits Worth the Risk. Clinical Journal of Sport Medicine, doi: 10.1097/JSM.0000000000000822
6) O’Connell ME, Lindley KE, Scheffey JO, Caravan A, Marsh JA, Brady AC. Weighted Baseball Training Affects Arm Speed Without Increasing Elbow and Shoulder Joint Kinetics. J Appl Biomech. 2022 Aug 18;38(5):281-285. doi: 10.1123/jab.2021-0339. PMID: 35981710.