「柔軟性」を語るうえで欠かせない「安定性」【アスレティックトレーナー】

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現場でよくある症例とアプローチ例

筆者がスポーツ現場でよく出会う症例の一つで、
具体的な症例と筆者がとるアプローチ方法の例を簡単にご紹介します。

股関節の詰まり、インピンジメント
図2

股関節を屈曲させた時に、股関節の外側(⭕️)あたりの詰まり感を訴えるパターンは非常に多いです。(図2)

もしこれを、柔軟性のみに焦点を当てて評価するならば、
「ハムストリングスや臀部の筋の柔軟性が課題だ」
となりがちです。

もちろん間違いではありませんが、
そもそも股関節が適切な動作を遂行できる状態であるか?
という運動パターンに目を向けた評価も必要になってきます。

エラーパターン①

ここでよくあるパターンの一つは、股関節屈筋の中でも、
大腿直筋や大腿筋膜張筋を過度に使ってしまっているパターンです。

股関節屈曲動作を主に作り出すのは腸腰筋であるべきですが、
なんらかのエラー(腰部のアライメント、安定性不足など)により
この腸腰筋が正しく機能しない状態になっていることで、
代償として大腿直筋や大腿筋膜張筋の過度な収縮とそれによる緊張度の変化が起こり、
股関節の異常な動作から詰まり感の訴えに繋がっていることが多くあります。

この場合のアプローチ方針としては、

  1. 大腿直筋、大腿筋膜張筋の緊張抑制(股関節の可動化)
  2. 腰部〜骨盤帯の安定性の向上(腰椎〜骨盤帯の安定化)
  3. 腸腰筋の活性化(股関節の可動化)

の3段階です。

1.大腿直筋、大腿筋膜張筋の緊張抑制(股関節の可動化) の例

2. 腰部〜骨盤帯の安定性の向上(腰椎〜骨盤帯の安定化)の例

3. 腸腰筋の活性化(股関節の可動化)の例

エラーパターン②

パターン②は、股関節の後面にある筋が過度に緊張し、
股関節屈曲時の大腿骨頭の後方移動を妨げているパターンです。(図3)

股関節の詰まり、インピンジメント
図3

股関節が屈曲(図3右)する際、大腿骨の骨頭は後方に移動します。
しかし、後方の筋が過度に緊張し、後方移動を妨げる壁となっている場合、
骨頭が前方に押し出され、詰まり感や痛みを生じさせます。

解決策するためには、過度に緊張している後方の筋の過緊張を抑制しなければなりません。

ここでとる方法として、

①対象の過緊張となっている筋に直接アプローチする。
②拮抗筋が収縮する股関節内旋エクササイズを行い、相反性抑制により筋緊張を緩和させる。

の2パターン用意しておきます。

②の相反性抑制による筋緊張の緩和で攻める場合は、
厳密にいうと、大腿骨頭の動きを妨げている筋の作用は外旋だけでなく、
股関節の肢位によって内旋機能を持つ筋もあります。(以下詳細)

そのため、
様々な股関節の屈曲角度で、内旋/外旋をどちらも入れてあげることで、
確実に変化を生み出すことができます。

共収縮エクササイズ[Co-Contraction]

【股関節回旋動作は奥深い】

臀部の筋は、
大臀筋、中臀筋、小臀筋、大腿筋膜張筋
という大きな筋と、

梨状筋、内閉鎖筋、外閉鎖筋、上双子筋、下双子筋、大腿方形筋
という、より深い位置にある小さな筋(深層外旋六筋)
によって構成されています。

※解剖学の情報は書籍や文献によって若干の違いがあることもあります。

大臀筋
起始:腸骨、仙骨/尾骨の後面、後仙腸靭帯の一部 
停止:大腿筋膜、腸脛靭帯上部線維、臀筋粗面(下部線維)
作用:
・股関節の伸展、外旋

中臀筋

起始:腸骨稜 停止:大転子外側面
作用:
・前部線維…股関節の外転と内旋
・後部線維…股関節の外転と外旋

小臀筋

起始:腸骨(中臀筋起始部より下) 停止:大転子前面
作用:
・股関節屈曲、外転
・前部線維…股関節の内旋の補助
・後部線維…股関節の外旋の補助

大腿筋膜張筋

起始:上前腸骨棘 停止:腸脛靭帯の近位1/3
作用:
・股関節の屈曲、外転、内旋
・膝関節の外旋

梨状筋 8)
起始:仙骨前面 停止:大転子上部
作用:
・股関節伸展時の股関節の外旋
・股関節屈曲時の股関節の外転、90°を超える深い股関節屈曲位での内旋

内/外閉鎖筋
6)
起始:閉鎖膜 停止:大転子
作用:
・内閉鎖筋…股関節伸展時の大腿骨の外旋、股関節屈曲時の大腿骨の外転
・外閉鎖筋…股関節中間位〜屈曲位での股関節の外旋、屈曲股関節の内転の補助

上/下双子筋
7)
起始:坐骨棘〜坐骨結節、内閉鎖筋膜の一部と結合 停止:大転子
作用:
・股関節外旋の補助

大腿方形筋

起始:坐骨結節外側縁 停止:大腿骨の転子間稜
作用:
・股関節の外旋と内転

このように、臀部の筋群は近い場所に位置していても起始と停止の位置関係によって作用が少し違っていたり、同じ筋でも線維によって全く反対の作用を持つ筋もあったりします。

我々専門家はこのような細かいアプローチもできますが、ご自身でのケアに活かす場合は、
「一定の肢位でのストレッチ/エクササイズだけでなく、様々な角度・肢位でストレッチやエクササイズをする」
という風に考えてみてください。

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