関節の可動性/安定性を引き出す考え方
では実際に関節の可動性/安定性を引き出すために、どのようなアプローチ、考え方が必要か。
よく現場で出会う場面から、今回は3つご紹介したいと思います。
1.「ストレッチ」本当に正しくできている?
この記事を読んでくださっている方は、
自らのケアとしてストレッチに取り組む人も多いのではないでしょうか?
しかし、
「そのストレッチ、本当に正しくできていますか?」
筆者もスポーツの現場で働く一人ですが、選手のセルフケアを見ていて、
”ちゃんと”できている人は少ないだろうと感じるため、この点についてお伝えしたいと思います。
特に今回は、静的ストレッチについてです。
※今回の記事でのストレッチ=「静的ストレッチ」と言う体で話を進めます。
せっかくストレッチをするなら、より効果を出す方法を知り、実践しましょう。
静的ストレッチって何?という方は、まずはこちらをご覧ください
→(基本編)ストレッチの種類・方法
皆さんはストレッチをする時、1つの部位につき、何秒間ストレッチをしますか?
なんとなく、10秒〜15秒くらいの人が多いのではないかな?と思います。
実際選手に聞くと、そのくらいでしている人が多いです。
では本当に10秒で効果があるのか?というところですよね。
前回の記事でもご紹介しましたが、
静的ストレッチの効果が見られる(=可動域の向上が見られる)時間の目安は、
30秒です。3)
10秒で終わってしまうと、やっている気にはなりますが、
基本的に可動域向上の効果は出ないと考えた方が良いかと思います。
ゆっくりと、30秒間以上、リラックスして行いましょう。
「リラックス」と言いましたが、
なるべくリラックスできる環境を作ることも重要です。
ストレッチで何をしたいかというと、
筋の緊張度を低下させることが一つ目的になります。
副交感神経を活性化し、筋の緊張度が下がりやすい状態を作ってあげることも重要になります。
うるさい場所よりは静かな場所で、
体は冷えているよりは温まった状態で、
実施しましょう。
加えて、筆者オススメのリラックス状態を作るためのエクササイズを一つ。
1. 正座から土下座のような姿勢をとります。
2. 腕は前方にダランと垂らし、
赤ちゃんのように背中をできるだけ丸めます。
この時首がすくむような形にならないように、
首の後ろを長く保ちましょう。
2. そのままゆっくりと深呼吸をします。
3. 息を吸いながら、空気の圧で肋骨を背中側に広げます。
4. 下腹を凹ませるようにしながら息を吐きましょう。
5. これを30秒~1分繰り返します。
あくびが出たり、なんとなく眠く感じるかもしれません。
このエクササイズでリラックス状態に整えてからストレッチをすると、より効果的です。
眠くなって肝心のストレッチを忘れないように、ご注意ください。笑
2.相反性神経支配(相反性抑制)を活かす
基本編のダイナミックストレッチの紹介でも触れましたが、
「相反性抑制」4)を活かすことで、より関節の可動性、安定性を引き出すことが可能です。
相反性抑制とは、
主導作筋が収縮する際、反対の作用を持つ筋の収縮を抑制する作用です。
この抑制のメカニズムは、主導作筋の求心性Ia線維からIa抑制性介在ニューロンを介して拮抗筋の脊髄前角細胞に直接シナプスを介して結合することで、拮抗筋を抑制する2シナプス性Ia相反抑制があります。9)
より噛み砕いてはなすと…
例えば、
「肘を曲げる」ときに「肘を伸ばす」方向に力が入っていたら肘は曲げにくくなります。
そのため、肘を曲げようとした時に、
肘を伸ばす筋は「力を抜け」という指令が出され、
スムーズに肘を曲げやすくしている、ということです。
このシステムは、円滑な関節運動を行うための重要な機能であるため、
もしこのシステムに障害が起こっていると、円滑な関節運動を阻害し、
運動パフォーマンスの低下や痛みを生じる原因にもなり得ます。
では、このシステムがなぜ柔軟性を引き出すことに繋がるのでしょう?
筋の柔軟性が低い状態は、
慢性的に筋の緊張状態が続いてる状態(過緊張)とも言えます。
常に筋肉が緊張しているから凝り固まって硬くなっているということです。
このシステムを効果的につかえるようにしてあげることで、
筋肉の「力を入れる」、「力を抜く」がうまくできるようになり、
筋肉の緊張がほぐれ、柔軟性を引き出すことができます。
よく過緊張が起こる筋として、大腿筋膜張筋が挙げられます。
股関節の屈曲・外転・内旋作用をもつこの筋に、「緩め」という指令を出してほしい、となれば、、、
股関節の伸展(↔︎屈曲)・内転(↔︎外転)、外旋(↔︎内旋)運動を行うことで、
緊張が抑制するように指令が出されます。
いわゆるクラムシェルエクササイズもその一つです↓
単に緊張している筋をストレッチするだけでなく、
この相反性抑制を上手く活用することでより効果的にアプローチすることができるということです。
3.関節求心位を保つ[Joint Centration]
これは特に、球関節である肩関節・股関節においていえることですが、
関節を適切に可動させるor安定させるためには、
関節の求心位(≒中心位)を保つことがとても重要です。
求心位とは、
骨頭が関節窩の近くに位置している状態のことです。[=Joint Centration](図1 上)
いろんな方向に骨が動いたとしても、常に関節の距離感が変わらない状態、
とイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。
筋肉のバランスがいい状態では常にこの求心位が適切に保たれるのですが、
筋肉のバランスがくずれると求心位を保てずに、骨頭が関節窩から離れると、
運動軸が定まらず、骨頭が様々な方向に動き、関節の安定性が低下してしまいます。
(安定性がないと、運動に伴い骨頭が暴れてしまうイメージです。)
これによる関節の詰まり感、挟み込まれるような感覚(インピンジメント)が引き起こされ、
結果として可動域が低下していまいます。(図1 下)
この求心位を保つために重要な役割を果たしているのが、
ローカルスタビライザー、いわゆるインナーマッスルです。
球関節である肩関節・股関節には、数多くのローカルスタビライザーが位置し、
様々な方向から骨頭を支えてくれています。
骨性の支持力が少ない球関節において、
関節の安定性・可動性は、これらのスタビライザーの機能に依存します。
スタビライザーが適切に機能していれば、適切な関節運動が行われますが、
そうでなければ運動のエラーが起きやすくなります。
野球選手のウォームアップで肩のチューブトレーニングを目にすると思います。
地味でなんのためにやっているの?と感じている方も多いと思いますが、
実はチューブトレーニングは、肩のスタビライザーをきちんと機能させ、
肩関節の求心位を保つことで正しい肩の動きをするための一つの例なのです。
股関節と肩関節はどちらも可動関節ですが、特にこの2つの関節は、
スタビライザーによって安定した求心位を保つことで初めて可動性が得られます。
可動性を高めるために安定性が重要となる、非常に複雑な関節であるといえます。
共収縮エクササイズ[Co-Contraction]
関節の求心位を保つための方法として、ストレッチや、徒手療法などの治療を選ぶ方もいらっしゃるかと思いますが、筆者は選手/患者/お客様本人の力で動くエクササイズを優先的に選択します。
この理由として、
”Co-Contraction”の考え方があります。
“Co-Contraction”とは「共収縮」を意味します。
「共収縮」とは、複数の筋が一斉に収縮をしている状態のことです。
前後または左右の筋の緊張度が適切であることが、関節の動きが安定する要因の一つです。(図1 上)
慢性的な障害による動作パターンのエラー、既往による組織状態の変化などによって、
この筋の緊張度は変化してしまいます。
この変化してしまった緊張度を整える方法の一つとして、”Co-Contraction”エクササイズを用います。
- 機能的に関節中心位を作り、その位置でエクササイズを行うことで、
正しい運動パターンの学習になる。 - 正しい位置で行うことで適切な筋収縮を促すことができる。
- 代償が少なく済むため、セルフで行いやすい。
などがこれらのエクササイズを選択するメリットとして挙げられます。
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