「柔軟性」を語るうえで欠かせない「安定性」【アスレティックトレーナー】

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はじめに

こちらでは「専門家の視点」として、基本編からさらに深掘りした内容をお届けいたします。
もっと「柔軟性」を深掘りしたい方、身体のことについて詳しく読んでみたい方は是非続きをご覧ください。

基本編はこちらから↓

今回は、アスレティックトレーナーの視点から、さらに深掘りして詳しく述べていきたいと思います。

アスレティックトレーナーとは?
JSPO-ATとは?

可動性/安定性はそれぞれ大事

これは基本編でも述べた部分になりますが、
身体は柔らかければ良いかというとそうではありません。
怪我の予防やパフォーマンス発揮の観点から、関節においては、
柔軟性と共に安定性もとても重要です。
この点についてより詳しく掘り下げていきます。

Joint by Joint Theory

以前の記事でも少し触れています。
「理想的なアライメントを作るために」

Joint by Joint Theory“は、Gray Cook, Michael Boyleによって提唱された理論です。5)
これは端的に言うと、「人体の関節のルール」を提唱する理論です。

関節にはそれぞれ安定性[スタビリティ]もしくは、可動性[モビリティ]という役割があります。
それぞれの関節は構造によってこの安定性と可動性のどちらかに優位性が与えられています。

すなわち、
『安定することが大事な関節』と、
『可動することが大事な関節』
2種類あると言うことです。

このルールを破り、
本来与えられていない動きを行うことによって、痛みを生じることが起こり得ます。

下の図で主な関節の役割を
例えば、股関節は可動性[モビリティ]が重要な関節で、腰椎は安定性[スタビリティ]が重要な関節です。
股関節の動きが悪くなる(可動性が低下する)と
→ 腰椎に代償運動(代わりに過剰な動きをすること)が起こり(安定性が低下する
→ 腰の痛みを生じやすくなります。

Joint by Joint 理論

体は柔らかいだけでなく、関節を安定させることも大事だ
ということが先ほどの例からわかると思います。

ただし、あくまで優位性が高いのであって、
安定関節においても最低限の可動性は必要であり、
可動関節においても最低限の安定性は必要になります。

【スポーツ現場の話】〜ハムストリングス肉ばなれ〜

具体的に可動性と安定性がうまく機能せず怪我が起きるケース、ハムストリングスの肉ばなれ)を紹介します。

ハムストリングスとは、大腿後面にある4つの筋の総称です。
これらの筋が引っ張られることによって損傷することを肉ばなれと言います。

もちろん、損傷した筋自体のいわゆる「硬さ」「弱さ」も原因の一つですが、
それを引き出してしまう動作パターンに原因があることが大半です。

どんなに筋の柔軟性が高くても損傷してしまう選手もいます。

では損傷の原因となる動作パターンとは具体的にどのようなパターンでしょうか?

◎最大スプリントの股関節屈曲相における大殿筋表面筋電図活動レベルが正常化され、股関節伸展相における腹斜筋電図活動レベルが正常化されたアマチュア男子サッカー選手は、筋の活性化レベルが低い選手に比べて、その後のハムストリングスの傷害を負う可能性が低いことを報告。(Schuermansら, 2017)1)

◎体幹の安定性を向上させるために提案された漸進的なアジリティと体幹のエクササイズを含むリハビリテーションプログラム(PATS)は、筋力強化とストレッチを強調したプログラムよりも傷害の再発が有意に少なかった。(Sherryら, 2004)2)


これはすなわち、
体幹(腰椎〜骨盤部)のコントロール能力・安定性が高ければ、
ハムストリングス肉離れの損傷率が低下する
と言っています。

実際に現場でもハムストリングス損傷の選手には、損傷した筋だけでなく、
体幹(腰椎〜骨盤帯)のリハビリテーションを処方することも多くあります。
このことからも、安定関節としての腰椎(〜骨盤帯)の、傷害予防における役割がわかるかと思います。

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