アームケアプログラム 概要
・投げる時に肘・肩が痛い
・野球のピッチャーって怪我しやすい?
・今は痛くないけど、怪我を予防したい
今回のプログラムは、こういった野球選手向けのものとなります。
このような選手に取り入れて欲しいものに、今回紹介する「アームケア」があります。
アームケアとは…
投手(ピッチャー)の肩や肘を中心とした上肢のコンディションを守り、障害を予防しながらパフォーマンスを維持・向上させるための取り組み全般のこと
上記のような悩みを抱える選手は、こちらの記事・資料を参考に、是非アームケアに取り組んでみてください。
アームケアの基本概念
『アームケア』にはいくつもの要素があります。
- 投球フォームの最適化
- 投球数の制限・適切な休養
- リカバリーとコンディショニング
- 適切なリハビリテーション
Sport Hack Lab.が行う、投球フォームの最適化はこちらから
「アームケア」という言葉にはいくつもの意味が込められていますが、今回は、
②投球数の制限・適切な休養
について、ご紹介します。
「投げすぎ」が怪我の原因になり得ることは、多くの方が何となくイメージできると思います。これは、実際に多くの研究でも示唆されています。3~6)
では「投げすぎ」とは、具体的に何を持って「投げすぎ」というのか?
今回の記事ではその具体的な指標を示しました。
本記事では、野球連盟から公式に発表されている最新情報から研究の結果をカバーしています。
最後のまとめでは「小学生」「中学生」「高校生」それぞれに合わせたオススメの投球数管理をまとめているのでぜひ最後までお読みいただけると嬉しいです。

以下の記事は、プログラムの内容をより深く理解し、実践したい方に向けたものになります。
とりあえず取り組んでみたいという方は、資料のみでも十分の内容となっておりますので、こちらの資料をダウンロードしてご活用ください。
投球数管理の現在
まずは現状を知ることからです。
- 日本における投球数制限の現状
- 中学生への提言
- 日本臨床スポーツ医学会は、中学生の投球数を1日70球、1週間で500球以内とすることを提言しています。1)
しかし、日本少年野球連盟などが定めたガイドラインなどでは細かい違いもあり、各々確認が必要な状態です。
- 日本臨床スポーツ医学会は、中学生の投球数を1日70球、1週間で500球以内とすることを提言しています。1)
- 高校生への提言
- 日本高等学校野球連盟
- 2020年から3年間、1人の投手が1週間で投球できる総数を500球以内とするガイドラインを導入。2)
これは2025年から正式規則として承認されました。
- 2020年から3年間、1人の投手が1週間で投球できる総数を500球以内とするガイドラインを導入。2)
- 日本高等学校野球連盟
- 中学生への提言
- アメリカにおけるガイドライン「ピッチスマート」
- 年齢別の投球数制限と休養期間
- メジャーリーグベースボール(MLB)とUSA Baseballが策定した「ピッチスマート」では、17~18歳の投手は1日最大105球とし、投球数に応じて0~4日間の休養を推奨しています。例えば、105球投げた場合は4日間の休養が必要とされています。
- 年齢別の投球数制限と休養期間
年齢 | 1日あたりの最大投球数 | 0日間の休養が必要な投球数 | 1日間の休養が必要な投球数 | 2日間の休養が必要な投球数 | 3日間の休養が必要な投球数 | 4日間の休養が必要な投球数 | 5日間の休養が必要な投球数 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
7~8歳 | 50球 | 1~20球 | 21~35球 | 36~50球 | – | – | – |
9~10歳 | 75球 | 1~20球 | 21~35球 | 36~50球 | 51~65球 | 66球以上 | – |
11~12歳 | 85球 | 1~20球 | 21~35球 | 36~50球 | 51~65球 | 66球以上 | – |
13~14歳 | 95球 | 1~20球 | 21~35球 | 36~50球 | 51~65球 | 66球以上 | – |
15~16歳 | 95球 | 1~30球 | 31~45球 | 46~60球 | 61~75球 | 76球以上 | – |
17~18歳 | 105球 | 1~30球 | 31~45球 | 46~60球 | 61~80球 | 81球以上 | – |
19~22歳 | 120球 | 1~30球 | 31~45球 | 46~60球 | 61~80球 | 81~105球 | 106球以上 |

- 指導者の認識と課題
- 投球制限の必要性に関する意識
- 中学軟式野球部の指導者を対象とした調査では、71%が投球制限の必要性を感じているものの、ガイドラインで定められた投球数上限を知っている指導者は48%にとどまっています。2)
- 投球数制限に対する意見の多様性
- 一部の指導者からは、投球数制限だけでなく、試合日程や試合方式、メンバー登録人数など、総合的な改善が必要との意見も出ています。
- 投球制限の必要性に関する意識
投球数と怪我のリスクに関する研究
投球数と怪我のリスクに関する報告はいくつもされています。
投球数と手術リスクの関連性
Olsenらの研究によれば、1試合あたり80球以上投げる投手は、80球未満の投手に比べて手術を必要とする怪我のリスクが4倍高いと報告されています。3)
年間投球数と怪我のリスク
年間で400球以上投げた選手は、肩や肘に痛みや怪我を経験する確率がそれぞれ2.81倍と2.34倍に増加することが示されています。4)
9歳から14歳の少年野球投手を対象とした10年間の追跡調査では、年間100イニング以上の投球が肩や肘の重篤な故障リスクを約3.5倍に増加させることが報告されています。5)
投球数と少し観点は変わりますが、2024年12月に発表されたMLBの調査では、投球速度の上昇や最大努力の投球が投手の怪我の増加に関連している可能性が指摘されています。6)
(以前我々のSNSでも取り上げました↓)
このように、「投球数」と「怪我のリスク」は常に隣り合わせにいるといえます。
また、これらの研究が特に育成年代で行われていることが重要です。
これらの年代での投球数管理が、将来の怪我のリスク管理や選手寿命にも関わってくる、重要なファクターとなり得ます。
年代別 投球数制限の具体的な目安

情報が溢れすぎて、結局どうすればいいかわからない!
という方もいらっしゃるでしょう。
これらの情報を踏襲した、年代別の投球制限の具体的な目安がこちらです。
(参考:日本高野連、USA Baseball「Pitch Smart」、日本臨床スポーツ医学会 など)
年齢 | 1日あたりの最大投球数 | 登板後の休養日 | 1週間の最大投球数 | 年間の最大投球数 |
---|---|---|---|---|
小学生(7~8歳) | 50球 | 2日間休養(20球以上) | 200球 | 1000球 |
小学生(9~10歳) | 75球 | 2日間休養(35球以上) | 350球 | 1200球 |
小学生(11~12歳) | 85球 | 3日間休養(40球以上) | 400球 | 1500球 |
中学生(13~14歳) | 95球 | 3日間休養(50球以上) | 500球 | 1800球 |
高校生(15~16歳) | 105球 | 4日間休養(70球以上) | 600球 | 2000球 |
高校生(17~18歳) | 110球 | 4日間休養(80球以上) | 700球 | 2200球 |
年代別 投球数制限のポイント
小学生(7~12歳)
- 過度な投球を避ける
- 成長期のため、肩や肘にかかる負担を最小限にすることが重要。
- 1週間に複数回登板する場合は、投球数を分散する。
- 登板間隔の確保
- 20~40球以上の登板をした場合は最低2~3日の休養をとる。
- 様々なポジションを経験することが重要
- 1つのポジションに偏らず、内野・外野を経験することで肩の負担を軽減。
2. 中学生(13~14歳)
- 試合ごとの投球数を抑える
- 95球を超えないようにし、連投は避ける。
- 登板翌日の休養を徹底
- 50球以上投げた場合は、最低3日間の休養を確保。
- 年間の投球管理が必須
- 1年間で1800球以内に抑えることで、肘・肩の障害リスクを低減。
3. 高校生(15~18歳)
- 100球超の投球を避ける
- 1試合の最大投球数は105~110球が目安。
- 1週間あたりの球数管理
- 600~700球を超えないようにする。
- 連投は極力回避する
- 70~80球以上投げた場合は、最低4日間の休養をとる。
- 肩肘のメンテナンスが必須
- リカバリートレーニングや、アイシング・ストレッチを徹底。
最後に
投球数「制限」ではなく「管理」であることが重要です。
「怪我をしない」ことが目標であれば、投げないに越したことはありませんが、それでは「野球が上手になる」という最大の目標が達成されません。
野球が上手になりつつ、怪我のリスクを最小限に抑える、という目的で、投球数をしっかりと「管理」することが重要です。
是非保護者の方やコーチの方はこちらの表を目安に、投球数管理を取り入れていただきたいと思います。
また、怪我の予防のためには、投球数の管理だけではなく他の要素(ストレッチやエクササイズなどの積極的なリカバリー、栄養・睡眠などの受動的なリカバリー)もとても重要です。
積極的(アクティブ)リカバリーについてのプログラムのご紹介も予定しておりますので、是非そちらもご覧ください。
参考文献
1) 中学軟式野球部の現状と障害に関する調査
2) 高校野球における投球数制限に関する研究
3) Dowling, Brittany et al. “A Review of Workload-Monitoring Considerations for Baseball Pitchers.” Journal of athletic training vol. 55,9 (2020): 911-917. doi:10.4085/1062-6050-0511-19
4) Olsen, Samuel J 2nd et al. “Risk factors for shoulder and elbow injuries in adolescent baseball pitchers.” The American journal of sports medicine vol. 34,6 (2006): 905-12. doi:10.1177/0363546505284188
5) Fleisig GS, Andrews JR, Cutter GR, et al. Risk of Serious Injury for Young Baseball Pitchers: A 10-Year Prospective Study. The American Journal of Sports Medicine. 2011;39(2):253-257. doi:10.1177/0363546510384224
6) MLB study: Velocity, max efforts likely causing pitching injuries; rule changes should be considered
https://apnews.com/article/a5606c566920da8f4ebae2ad5a6146ab?utm_source=chatgpt.com
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