スクワットを専門家視点で分析【ストレングコーチ①】

ストレングスコーチ

この記事を読むにあたって

今回はスクワットのディープなお話です!
体づくりのためのスクワットというよりは、

パフォーマンス向上を目的

とした場合のスクワットをすることで得られることに関して説明します。

体を大きくしたい、筋肉量を増やしたいという方は同じスクワットという名称だとしても方法がかなり異なってくるため、別記事をご参照ください。

この記事を読むことで、

スクワットをすることで得られること(目的)についてより深く理解できる
スクワットのいろいろな種類と使い分け

について少しでも知識を増やしていただくことを目的としています!

この専門家シリーズは、ストレングスコーチである筆者がお題に関してよりディープに掘り下げていくとてもマニアックな場です。
ただのHow toだけではなく、
なぜそれが必要とされているのか?
そもそも本当に必要なのか?
などより深く、応用することが可能な知識を探求したい方はぜひ一読ください!

論文等を引用して理にかなった説明を心掛けていますが、かなり深い内容であり、人によって解釈の違いが生まれてきます。正解となりうるものは何個もあるはずであり、もちろん正解へのアプローチ方法も複数あると思います。なので、筆者の解釈であり一つの考え方として持ってもらえると嬉しいです。

理解が難しい部分、自分の解釈と筆者の解釈が違う部分等々
ぜひともお互いに理解を深めていければと思うのでお気軽に連絡をください!

スクワットをする「本当の目的」とは?

なぜスクワットを種目として選ぶのか

スクワットという言葉を聞くと、すぐに思いつくイメージが「ウエイトトレーニング」でしょう。

ウエイトトレーニングは必要なのか?という議論はプロ野球選手の中でも意見が分かれるような大きなトピックですが、結論から先に述べると、ウエイトトレーニングとは

能力を向上させるための一つの手段であり、その手段は一通りではない、と考えています。

たとえて言うと、ウエイトトレーニングをしている目的が筋肉量を増やすことの場合に、もちろんウエイトトレーニングをすることによって筋肉量は増加しますが、自重の筋トレであれ、スプリント練習であれ、筋肉量を増やすことはできます。

そうです、最終目的次第でトレーニングは近道にも遠回りにもなりうるのです。
大事なのは、
トレーニングの目的を理解すること
=どんな能力を高めるためにウエイトトレーニングを行うのかを理解することにあります。

それでは、今回の本題に戻って、
野球選手にとってスクワットの目的となる「高めたい能力」とは何で、
スクワットをすることでどのようにその能力を向上することができるのでしょうか?

野球選手にとってスクワットをする必要性があるのはみなさん、なんとなく感じていると思いますが、
そもそもなぜスクワットが野球に必要と言えるかはっきり答えられるでしょうか?

最終的に野球動作で求められること

実際にスクワットの動作と野球の動作を比べて考えてみると、
動作としては多少似ていてなんとなく繋がってきそう?な気もするけど、
何とも言えない、、、と感じると思います。

そこで、そもそもの野球動作に着目して考えてみましょう。

よく耳にするように野球の特徴的な動作は「走る」「打つ」「投げる」の3つに大きく分けることができます。
そしてより詳しく、パフォーマンスの観点から言いかえると

 L 素早く体を回転させて、腕を加速し、速いボールを投げる(ピッチング)
 L 素早く体とバットを回転させて、力をピッチャーが投げたボールに伝え、遠くに飛ばせるか(バッティング)
 L 素早く足を動かし、地面を蹴ることで早くベースまで到達する(スプリント)

というように捉えることができます。

動作のタイプとしてはこのように違いがあげられますが、
上記の3つの野球の動作に必ず繋がってくる、
野球選手にとってのフィジカルトレーニングの最終的ゴールとなる要素があります。

それは、
いかにすばやいスピードで、自分の身体(自重)&道具を動かすことができるか
です。

何を当たりまえのことを。と思われるかもしれませんが、
ここでキーとなることは「すばやいスピード」と「自分の身体/道具」という点です。

スクワットが200㎏上げれようと、バットとという物体をすばやく動かせなければ意味がありません。
体重が70㎏でも、すばやく動くことができれば160㎞/hのボールを投げることはできます。
どれだけ筋肉量や体重があろうと結局は、
自分の身体を素早く動かせるかどうかで最終的なパフォーマンスは変わります。

これがフィジカルトレーニングの最終的なゴールであり、
筋肉をつける、持久力をつけることなどはあくまでこの最終的なゴールに到達するためのアプローチにすぎないのです。

では、
素早いスピードで身体を動かすためには何が必要なのか?
それは「筋肉をいかに素早く収縮できることができるか」です。

全ての人間の動きは筋肉を収縮することによって生み出されます。(厳密には、重力、慣性による加速もあるが)

大きい筋肉=高いパフォーマンス
ではありません。

必要とされるのは筋肉の「量」ではなく、
筋肉を使ってどれだけの「速度」の動きを生み出せるか、ということが重要なのです。

もちろん、体が大きく体重が重い人であれば、その体を早く動かせるための大きな筋肉が必要かもしれません。
逆に、体が小さな人は体重が軽いから少しの力で素早く動くことができるかもしれません。

「ウエイトトレーニング」はもちろん筋肉量を増やす手段の一つでありますが、
筋肉を素早く収縮する能力を訓練する方法として「ウエイトトレーニング」を行うことが、
アスリートのパフォーマンス向上に繋がります。

そして、そのトレーニング種目&動作が「スクワット」ということになります。

スクワットによる筋収縮スピードの向上

なぜスクワットが王道と呼ばれるのか?

トレーニング種目を考える際の理想的なアプローチは、

競技の中で○○な能力が必要とされているから、
その能力を鍛えるために、
○○という種目をやろうという風に種目を選べることです。

しかし、スキルや競技レベルによって競技動作はかなり様々であり、
身長や体重、すでにある筋肉のバランスなどを加味すると、
その人に完全にマッチした競技で必要とされている能力を導き出すのは相当な手間がかかります。

だからこそいろんな人の動作を平均化して、多くの人に当てはまるであろう能力が導き出され、
同じく、多くの人の能力を鍛えることができるであろう「スクワット」がよく用いられるのです。

次のパートではスクワットをすることで鍛えられることができるであろう能力は何なのかを深く考察していきます。
(あくまでスクワットによって鍛える能力を考えているので、その能力を鍛えるための一番効果的な手段がスクワットといっているわけではないのでご注意を。)

再びになりますが、実際にご自身でメニューを組まれる際は、
○○な能力を鍛えるための手段としてのトレーニング種目を選ぶ、
という点を一番に考えていただきたいです!(能力を鍛えるための手段はいくらでもあるため)

スクワットをやるのは、
筋肉を大きくして、大きな負荷に耐えることのできる怪我の少ない体をつくるため?
スピードを出して野球のパフォーマンスアップをするため?

この記事では、野球のパフォーマンスアップをするためのスクワットにおいて
皆さんに知っておいてほしいことをまとめているため、
もし、あなたが野球のパフォーマンスアップをしようとスクワットを取り入れるならば、

重い重量を上げられればそれでオッケーはなく、
いかに速いスピードを維持した状態で重量を上げることができるか

を頭においたうえでトレーニングを行いましょう。

物理的な意味

スピードが重要なのはわかったけれども、本当に最終的なパフォーマンスに繋がるの?
速いだけでは意味がないんじゃない?
と思ったそこのあなた。

少し、物理と数学の観点から考えてみましょう。
どうしても理系科目が嫌いという方は次の項目までスキップしてください!

まず、同じ体重の人を2人イメージしてください。

2人ともに全く同じ重量をもってスクワットをしています。

ただし、スクワット時の速度の変化を見たときのグラフは以下のようになりました。
どんな違い、そしてメリットが考えられるでしょうか?

上記のグラフから
AさんはBさんよりも早くグラフの頂点に到達することができた
=短い時間で到達することができた
=速い速度、そして加速度を発揮した
ということが読み取れます。

そして最終的なパフォーマンスは、パワー(W)として以下の公式から計算することができます。

スピード(v) × 力(F) = パワー(W)

Aさんは1.2m/s でスクワットを行い、Bさんは1.0m/sでスクワットを行った仮定した際に、
力(F)は一緒と考えることができるため、(同じ重量をもっているから)
結論としてAさんの方が大きなパワーを発揮することができたと導き出すことができます。

つまり、スクワットをする際には力(F)を大きくすることも大切ですが、力(F)のみならず、

どれだけ高い速度を発揮することができるか、
どれだけ短い時間で最大速度に到達することができるのか、

この二点が大事になってきます。
これら二点を頭においてトレーニングをしてみてください!
(ちなみに専門用語では”RFD (Rate of Force Development)” と呼ばれます。)

まとめると体重は変わらないものと仮定したとき、
シンプルな動作スピードそしてどれだけ大きなスピードの変化を得ることができるか
=どれだけ一気に最大速度に到達できるか
をトレーニングすることが重要になってきます。

重量や回数よりも意識してほしいこと

スクワットに取り組むうえでよく目にするのが、
重量や回数にばかりフォーカスをしてしまうパターンです。
筋肉に対する負荷そして筋肥大を目的とするトレーニングにおいては
それで大丈夫な場合もありますが、スポーツにおいてはそうはいきません。

スポーツにおいては基本的に動作を行う回数はほぼ同じであり (試合でバットを振る回数)、
持つ重り(バットの重さ)に関しても大きな違いはありません。

だからこそ大事になってくるのがスピードです。

いかに速いスピードに到達できるか(最大スイングスピード)、
そしていかに早く最大速度に到達できるか(リアクションタイム、加速度)が
高いパフォーマンスを発揮するためには必要となります。(グラフでは二次曲線の「傾き」の部分)

この最大速度に到達するまでの時間を意識することで、
素早くそしてキレのある動きを作ることができます。

他の例として、陸上の100m走を上げましょう。
短距離走では多くの研究でタイムが早い選手ほど地面の接地時間が短いということが報告されています。1)
その理由を極端な具体例として、先ほどのパワーの公式で考えると

  • トップランナーは0.1秒の接地時間で500Nの力を発揮
  • 一般ランナーは0.4秒で500Nの力を発揮

同じ力を発揮しているのにも関わらずそれに要する時間が違い、
それが結果としてパフォーマンスにも影響してくるのです。

同じようなことがスクワットにも言えて、
同じ100kgの重りを上げていても0.5秒で上げることのできるAさんと
2秒かかってしまうBさんではパフォーマンスの差は明らかでしょう。

ウエイトトレーニングで実施する際の主なアプローチ方法は以下の二つです。

2パターンのアプローチ
ー 高重量をできる限り早く動かせるように努力する
ー 重量を軽くして動作速度を上げる

これらの具体的なアプローチ方法に関したはまた別の記事で説明しようと思います!

ある程度のスピードが発揮できないなら重量を落とせ?

FLEX by Gymaware

ここ最近ではゆったりをした動きはパフォーマンスの向上に直接的には関わらないとして、
ある一定の動作スピードに達することができなければ負荷を調整する
といったトレーニング法が取り入れられることもあります。

専門用語では、VBT (Velocity Based Training)と呼ばれています。

このVBTにおける基本的な概念として、

1. どれだけ早く最大のパワーに到達できるかが大事である
2. 普段のトレーニングから動作のスピードを気にするべきであり、数値化するべき

という内容になります。

VBTトレーニングでは、バーベルに速度を測定するための機械を設置することによって、
毎回の動作をどれだけのスピードで行っているか、モニターかつ記録しています。2)

もう少しVBTに関して知りたい方は、龍谷大学の長谷川教授のインタビュー記事をぜひご覧ください!

育成年代にも広がるトレーニングメソッド「VBT」とは? | TORCH (torch-sports.jp)

まとめ

①パフォーマンス向上に必要なのは「筋肉をいかに素早く収縮できることができるか」である。
②そのために、スクワットをする際に「どれだけ高い速度を発揮することができるか」
「どれだけ短い時間で最大速度に到達することができるのか」を意識する。
③「高重量をできる限り早く動かせるように努力する」「重量を軽くして動作速度を上げる」の二つのアプローチ方法がある。

この記事を通じて
どんな能力を得たいのかを理解して、
スクワットの種類・特徴について理解をして、
皆さんの目的に合ったトレーニングをすることができることを祈っています。
そして、なかには
もしかしたらスクワットではない他の種目が適しているのでは?
と柔軟な思考をお持ちになる方がでてきてくれたらなと思っています。

ストレングスコーチ② Coming soon…

参考文献
1) Brian, Hanley., Catherine, B., Tucker. (2019). Changes in contact and flight times with increased speed during overground and treadmill race walking. European Congress of Sport Science 2019. DOI: 10.13140/RG.2.2.29505.30561
2) Ramos AG. Resistance Training Intensity Prescription Methods Based on Lifting Velocity Monitoring. Int J Sports Med. 2024 Apr;45(4):257-266. doi: 10.1055/a-2158-3848. Epub 2023 Aug 22. PMID: 37607576.

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